平成29年度 第96回 全国高校サッカー選手権大会 総評
報告者:高体連技術部員 栄北高校 武田直樹
平成29年度第96回全国高等学校サッカー選手権大会が12月30日(開会式・開幕戦)から1月9日(決勝戦)にかけて開催された。優勝は群馬県代表・前橋育英高校。準優勝は千葉県代表・流通経済大柏高校、3位は栃木県代表・矢板中央高校、長野県代表・上田西高校という結果に終わった。全国4,093校の頂点に輝いた前橋育英高校は21回目の出場にして初優勝(群馬県としても初)。攻守の切り替えを早くし、ボールを中心にコンパクトフィールドを形成し、人とボールを動かすチームは、常にチーム全体がハードワークし、相手に隙を与えないチームであった。特に、県予選では4試合無失点、今大会も5試合で1失点(準決勝上田西戦)とチーム全体の守備意識の強さが印象に残った。また、準優勝の流通経済大柏も今大会5試合で1失点。唯一の失点は決勝戦のアディショナルタイムであった。
本県代表の昌平高校は1回戦が広島県代表・広島皆実高校。埼玉県大会と同様に1−4−2−3−1の布陣でスタートし、CB石井・関根とMF原田を中心としたビルドアップからFW佐相を起点に攻撃を組み立て、ボールと人が動き、多彩なコンビネーションでゴールを目指そうとする意図は伺えるものの、広島皆実が自陣に守備ブロックを敷き守備に徹するゲーム展開をするため、なかなか攻めきれない時間が続いた。怪我でMF山下がベンチスタートであったことや、広島皆実の徹底した守備もあり、埼玉県大会で見られた、ボールと人が動き、流れるような攻撃や、イマジネーション溢れる攻撃をなかなかさせてもらえないように見えた。ボールは持たせてもらえるものの、攻撃はFW佐相に頼る場面が多く、相手守備陣の戦術にハマっていた。しかしそのような状況の中でも佐相が相手GK前のスペースに走り込み、DF塩野からのクロスボールをGKの前でヘディングですらせてゴールを奪った。攻撃の昌平、守備の皆実の展開が続く中、前半終盤に失点を許し同点とされた。後半途中で山下が投入されるとドリブルでの仕掛けやリズムあるパス交換でチャンスが作り出され、攻撃が活性化した。しかし得点を奪えずPK戦に突入したが、勝利し2回戦へ進出した。
2回戦の神村学園高校(鹿児島県)戦では、縦に早い攻撃を仕掛ける神村学園が、前半早々クロスボールのこぼれ球を拾い、技術・タイミング・コースの上手さや冷静さを感じるシュートでゴールを奪う。昌平は1回戦同様、ボールと人が動きながらゴールを目指そうとするが、神村学園の寄せの速さや、懐に入ってくる距離が近く、昌平の選手一人一人に余裕がないように感じた。そのことによってボール保持者の選択肢が限られたり、判断が遅れたり、パスが微妙にズレたりしてなかなか有効的な攻撃には至らず時間が過ぎていった。後半、山下・古川・高見を投入し相手を押し込む時間帯を作るが、相手GKのファインセーブもあり得点を奪えず、前半早々の失点が最後まで響き0−1で2回戦敗退となり、神村学園の決定力の高さに敗戦を喫した形となった。中心選手がフルに出場できなかったことや、それによる精神的な部分が大きく影響しているように感じた大会であった。しかし、ドリブルで狭い局面を突破したり、リズム感あるショートパスでの突破、時折見せる相手の隙をつくロングカウンターなど昌平高校らしい攻撃が見られ、2試合で8人(7人は先発)の2年生がピッチに立てた事は今後に期待できるところである。全国で勝ち上がるためには、セットプレーやフィジカル、短い時間で勝負できる特徴をもった控え選手など、ゴールを奪うために必要なストロングな術(選択肢)を複数もつ必要があるようにも感じた。
大会全体を通しては、堅守速攻型でフィジカル的に強く、一試合を通して力強い守備が継続でき、相手を自由にさせず試合の主導権を握り、決定力のある選手が存在するチームが勝ち上がったように感じる。攻守を分業するチームや、全員で攻守を行うチームとタイプは異なるが、基本的には守備意識を高めハードワークをし、攻守の切り替えを早くし、奪ったボールはリスクをできる限り負わないように前線またはFW目掛けてボールを供給しているチームである。中には、本来パスやドリブルで攻撃を組み立てるであろうというチームも、全国大会という状況や相手との力量を考えた時の戦術による堅守速攻を割り切って選択しているチームも見られた。10日間で6試合(開幕戦を除けば9日間)、しかも準決勝・決勝戦は90分という選手にとってはハードなスケジュールで技術・体力・精神力の維持を考えると、シンプルな戦術が理にかなっているといったところであろうか・・・。逆に言えば、そのようなプレッシャーの中でも良い判断をし、意図するプレーができなければ上位へは進出できないということも言える。
今大会は、交代枠が5名に変更された。交代枠が増えたことによる試合の状況によって積極的な交代に大きな影響は見受けられなかったものの、矢板中央高校(栃木県)は交代時間と入れ替わる選手が大方決まっていた。また、「ヘディングが強い」、「ドリブルが得意」、「ロングスローを投げられる」など特徴ある選手をもつチームにとっては、ゲームでリードしていても、ビハインドでも、少ない残り時間で試合に変化をもたらし、最後まで勝利を具体的にイメージしやすく有効な策になる可能性を感じた。(仕事のできる試合終盤の戦術的選択肢がある。)また、当然のことではあるが、やはりゴールを奪う決定力のあるチームは強い。「守備が強い」、「ポゼッションが高い」、「ゲームを優勢に進められる」など試合に勝つための要素は色々あるが、やはり「ゴールを奪える選手」がいるチームが勝つ。「ゴールを狙う」、シュートの際の「判断」、「技術」、「冷静さ」、「フィジカル」、「駆け引き」、「集中力」などはトレーニングの必要性を感じた。
新チームに変わり新たなシーズンが始まり、日々トレーニングに励み、各々のチームのストロングな面は伸ばしつつ、プラスアルファを一つでも多く積み重ね、切磋琢磨し、来年の選手権大会で埼玉県代表が優勝することを期待したい。
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