平成28年度 第95回 全国高校サッカー選手権大会 総評

報告者:高体連技術部員 大宮南高校 大野恭平 

 第95回全国高校サッカー選手権大会は青森県代表青森山田高校の優勝で幕を閉じた。
 青森山田高校はプレミアリーグ東日本においてJユースクラブを抑えて優勝を勝ち取り、高円宮チャンピオンシップにおいても西日本覇者サンフレッチェ広島ユースを0-0の末PK戦で破り年間チャンピオンの座を掴んだ。いわばユース年代の王者として挑んだ大会であった。優勝した要因としては、攻守において軸となるプレーヤーがいたことが挙げられる。FC東京内定のGK廣末はFC東京の下部組織から青森山田に進学、今ではユース年代屈指のGKとして呼び声が高い選手である。特徴は何といってもキックの正確さ、キックの飛距離、足元の技術である。試合中、フィールドプレーヤーは躊躇なくGKへのバックパスを選択することからも信頼度の高さが伺えた。また、廣末からのロングフィードが起点となって得点したシーンが多かった。GKが攻撃の起点となるチーム戦術が確立していたといえるであろう。ジェフ千葉内定のMF高橋は高い技術をベースに決定力の高さを発揮し、5試合連続で得点をあげるなど、その決定力でチームの優勝に大きく貢献した。また、キャプテンでアンカーのMF住永の攻守における献身性やリーダーシップ、FW鳴海の前線でのアグレッシブなプレーも光り、チーム全体で隙がなく常に勝利することから逆算したプレーを選手全員が実行する戦術理解度の高いチームであった。
 準優勝の群馬県代表前橋育英高校はインターハイ予選では県大会1回戦で敗れるという悔しい経験から、ここまで這い上がってきたチームであった。チームの特徴は、各選手が的確なポジショニングを取り、複数のプレーヤーが関わりボールを動かしながらゴールに向かうスタイルであった。また攻守の切り替えが早く、高い位置でボールを奪い返しショートカウンターをしかけるプレーも特徴的であった。前橋育英は2年生が多く出場していたので新チームでの全国制覇に期待がかかるであろう。
 ベスト4に残った栃木県代表佐野日大高校はDF5人、MF4人で守備ブロックを形成し、堅守をベースに数少ないチャンスを生かして勝ち上がってきたチームであった。同じくベスト4に残った大阪府代表東海大仰星高校は、1-4-4-2のフォーメーションで3ラインのブロックを敷き、統率のとれた守備陣形から個々の球際の強さを生かしてボールを奪いそこからのショートカウンターでゴールに向かい得点を重ねて勝ち上がってきたチームであった。両チームとも、勝ち上がった要因としては、1試合通して守備のバランスと集中力がとぎれない点と、チャンスを確実にものにする勝負強さがあったところである。
 本県の代表である正智深谷高校は3度目の出場で全国初勝利、全国ベスト8という好成績を収めることができた。正智深谷は1-4-4-2をベースに試合に応じて選手の配置を変え、試合展開によってさまざまな戦い方をすることができるチームであった。正智深谷は1回戦で島根県代表立正大淞南高校と対戦。序盤は相手の縦に早く鋭い攻撃で劣勢に立たされ前半を0-1で折り返すが、後半正智深谷の切り札的存在のFW田島を投入すると、田島が基点となりボールを保持する時間が長くなり、試合の主導権を握り返し2-1と逆転に成功し全国初勝利を掴むことができた。2回戦は東京都代表関東第一高校と対戦。1回戦同様、ビハインドの状況で迎えた後半残りわずかな時間帯から2点を奪い逆転勝ちを収めた。この試合では前半に1人退場者を出すアクシデントがあったが、その状況からの逆転は見事であった。3回戦は長野県代表創造学園高校と対戦。相手の高さを生かした攻撃をGK戸田・CB田村を中心に確実に跳ね返し、主導権を握りながら試合を進めた。そして、守備から攻撃への素早い切り替えから見事なカウンターにより得点を挙げ勝利した。準々決勝では優勝した青森山田高校と対戦。立ち上がりは正智深谷高校の方が攻守において相手を上回っていた。しかし、自陣深い位置での相手スローインからサイドを突破され、クロスに対する守備ではボールウォッチャーになり失点。その後もチャンスは作るが得点には至らず、相手の得意のロングスローとオウンゴールにより失点を重ね敗戦となった。大会を通じて、試合を重ねるごとに成長していく正智深谷の選手に感動を覚えた人は多くいたことであろう。埼玉県代表として力強く戦ってくれた正智深谷に称賛を送りたい。
 大会全般を振り返ると、攻撃においてはポゼッションプレーとダイレクトプレーを試合展開や相手の状況に応じて使いわけるチームが多くなってきた。意図なくボールを保持するだけのボール回しや、判断なく前線にボールを蹴るだけのチームは少なくなり、攻撃の優先順位を意識しながらプレーできる選手・チームが増えてきた。守備においても、前線から積極的にボールを奪いに行く守備と、ブロックを形成して相手を追い込み奪う守備を使い分けるチームが増え、チームとしてボールを奪うためのイメージが共有されていることがうかがえた。また、デュエル(1対1の強さ)においても相手を圧倒するという気迫や倒されても連続してプレーを続けるなどタフで逞しいプレーが随所に見られた。課題としては、ダイレクトプレーに対する対応が悪く、簡単にDFラインの背後を取られて失点してしまう守備があげられる。対策として、GKとDFがコミュニケーションを取ることや攻めているときのリスク管理を徹底する必要があると考える。クロスに対する守備においても、GK・DF共にボールウォッチャーになることが多く、ボールとマークを同一視するという作業を的確におこなえていない場面があったことにより失点をしていた。ゴール前の危険なエリアを守るということに対する危機意識を日ごろの練習から植え付けていく必要がある。攻撃時においては、プレーの質に対してもっともっとこだわって欲しい。一つのトラップ・一つのパスをとってもその状況にとって最善の選択をしているかというとまだまだ改善の余地はあると思う。日常からよりこだわってもらいたい部分である。また、セットプレーではロングスローという武器を持っているチームに対して、わかっていても失点していたことから、ロングスローに対する対策が今後必要になるであろう。
 この年代は、育成の時期を終え戦うサッカーへと移行していく時期である。チーム戦術を実行しながらも、状況に応じて的確な判断のできる力を養い、自立した選手へと成長し次のカテゴリーに進んでもらいたい。そして一人でも多くの選手権を経験した選手から日本を代表する選手が育っていってもらいたい。
 本県においては、全国高校総体で昌平高校がベスト4、全国高校サッカー選手権大会で正智深谷高校がベスト8と、全国大会において結果を残すことができた。来年度も引き続き全国大会で好成績を残すことができるよう、各チームにおいて今大会における成果と課題を分析し、日々トレーニングに励み、今年度の以上の結果を残すチームが現れることを期待する。


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