平成29年度 第60回 関東高等学校サッカー大会県予選 総評

報告者:高体連技術部員 川口青陵高校 山田純輝

 平成29年度関東高校サッカー大会埼玉県予選は、4月15日から30日にかけて浦和駒場スタジアムや埼玉スタジアム第2Gなどの会場で開催された。今大会は、昨年度の全国高校サッカー選手権埼玉県予選ベスト8のチームと、1月に行われた新人大会各支部予選から勝ち上がった24チームの合計32チームによるトーナメント方式で実施された。決勝のカードは、昨年度末の新人大会決勝と同カード(昌平高校vs正智深谷高校)となった。結果は、新人大会に続いて昌平高校が優勝、準優勝に正智深谷高校、3位に浦和西高校と狭山ヶ丘高校となり、新人大会に引き続きベスト4に東西南北1チームずつが名を連ねた。
 昌平高校は、近年の躍進と新人大会優勝の実績もあり、相手に分析されながらも安定感のある戦いで貫録を示した。1、2回戦の浦和東高校、成徳深谷高校戦をいずれも1点差の接戦で勝ち上がったことで勢いに乗り、5試合で18得点2失点と圧倒的な得点力で新人大会に続き優勝を飾った。1-4-2-3-1の布陣で、SBが高い位置を取り、中盤がポジションチェンジしながらテンポ良くパスをつなぐ攻撃的なポゼッションスタイルを貫いた。CBとボランチがパス交換することで相手ボランチを引き出してスペースを作り、そこにトップ下やFWが下りて楔を入れるとともにMFがサポート、そこからサイドへ展開し何度もゴールに迫った。FW⑨佐相が何度も背後で受けるアクションをしたことで相手DFラインが下がり、トップ下やインサイドにポジションを取ったSHが何度もフリーでボールを受けて前向きを作るシーンが見られ、主導権を握り続けた。その中でも戦術眼に長けたボランチ⑦山下の縦パスやドリブルは常に昌平高校の攻撃のスイッチとなっていた。ゲームの中で、中央からの攻めることを意識しすぎて攻撃の幅が狭くなることでボールを失い、カウンターを受けるシーンもあり、課題も残った。守備は、GK①緑川やCB④石井を中心にコンパクトな3ラインを形成し、チャレンジ&カバーが徹底されておりコレクティブで安定感があった。前線からの積極的なプレスで相手のプレーを限定し、後ろからの連動した守備で何度も高い位置でボールを奪った。一人ひとりの攻撃から守備への切り替えが早く、ボール奪取能力も高いため、相手に自由を与えなかった。しかし、時折FWからDFまでの距離ができ、相手FWやMFにフリーで前向きを作られ、押し込まれる時間帯もあり、今後の課題となった。
 準優勝の正智深谷高校は、1-4-4-2の布陣で、持ち味である堅守速攻のスタイルを遺憾なく発揮し、安定感のある戦い方で勝ち上がった。攻撃は、DFからロングボールをSHに送ったり、奪ってから素早く2トップにボールを供給したりしながら全体を押し上げ、スピードのある両SHがサイドを突破しクロスを上げる形で何度もチャンスを作った。新人大会で存在感を示したFW梶谷を怪我で欠くものの、個人のテクニックやスピードを生かした攻撃力は今大会でも目立っていた。リズムが悪くなったときにテクニックがあり戦術眼の高いFW⑩海老塚をボランチにするとゲームが落ち着き、リズムが生まれた。準決勝では、途中出場したFW⑮石橋が積極的な背後への動き出しから決勝ゴールを決めるなど活躍が見られた。守備は、コンパクトな3ラインでブロックを形成し、選手の距離感やバランスが良くコレクティブであった。全体の切り替えや守備意識の高さに加え、両CBのヘディングや対人の強さも際立ち、相手FWを自由にさせなかった。決勝戦では、後半半ばまで昌平高校の攻撃を無得点に抑えていたが、一瞬の隙をつかれて失点し涙をのんだ。最後まで集中力を切らさず戦い抜くことができれば勝機は訪れるはずである。
 3位の浦和西高校は、1-4-4-2の布陣で臨んだ。DFや中盤から長身FW⑪森をターゲットにロングボールを供給し、セカンドボールを拾ってラインを押し上げ、相手陣地でプレーしようと心掛けた。準決勝の昌平高校戦では、セカンドボールを相手中盤に拾われる形が多く、主導権を握ることができなかった。その中でもテクニックのあるFW⑩遠藤にボールが入ると全体が落ち着き、ラインを押し上げることができた。今後は、ロングボールと⑩遠藤やボランチを経由したビルドアップを併用すると攻撃に厚みやバリエーションが増えそうである。守備は、3ラインを形成し、コンパクトであった。中盤のスライドが遅れて相手FWにボールが入ってしまったり、SBが絞りすぎてサイド突破を許してしまったりなど課題も残ったが、準決勝に進出した唯一の公立高校として存在感を示した。
 同じく3位の狭山ヶ丘高校は、1-4-4-2の布陣で臨んだ。DFや中盤からFWやSHにロングボールを多用し、セカンドボールを拾って全体を押し上げ、主導権を握ろうとする。長身でフィジカルに長けた選手が多く力強かった。準決勝の正智深谷戦は、セカンドボールをなかなか拾うことができず、相手ペースで試合が進んだ。守備は、FWからDFまでコンパクトな3ラインを形成し、相手に自由を与えなかった。準決勝の後半は、中盤のスライドが遅れることで縦パスを通されはじめて相手ペースになり、決勝ゴールを許してしまったことは悔やまれる。失点後に、前線から積極的にプレスをかけるようになり、高い位置でボールを奪う回数が増えたことは自信につながるであろう。
 大会全般を振り返ると、新人戦のときと比べて各チームのスタイルが確立されてきたと感じる。攻撃は、ポゼッションスタイルのチーム、あまりリスクを負わずシンプルに前線にボールを供給して主導権を握ろうとするチームと特徴があった。守備に関しては、上位に残ったチームは、攻守の切り替えが早く、ボールを中心にコンパクトなラインでブロックを形成し、1stDFがパスコースを限定し、全体で連動してボールを奪う形が徹底されていた。特筆すべきは、準決勝と決勝で合計9ゴールが生まれたが全てのゴールが後半であったということである。これは、各チームの守備の確立に加えて、相手チームの特徴を分析することで前半は無失点に抑えられるものの、後半に集中力や体力が落ちることなどが一因で失点が重なったと考えることができる。今後の大会は、より気温や湿度が向上してくる。体力などフィジカル面の向上やコンディション調整など様々な面で万全にしていく必要がある。総体県予選や選手権県予選で、今年の2強になりつつある昌平高校、正智深谷高校に対抗するチームが現れるのか注目していきたい。
 今大会で関東大会出場権を獲得した昌平高校と正智深谷高校は、6月3日から埼玉県で行われる関東大会に出場する。地元開催ということでより一層注目されることが予想される。両チームとも県予選での成果と課題を整理して本大会に臨み、埼玉県代表として良い結果を残すことを期待して総評とする。


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